「随分優秀な秘書をお持ちのようだね」
形勢逆転とばかり意地悪い顔をする河野副社長。

俺は返事をすることもできなかった。

机の上に投げ出された書類。
そこには河野副社長の個人情報に関するアクセス記録と、青井麗子に関する調査報告書。
素人の俺が見ても、彼女にとって不利なのはわかる。

「これを公にすれば彼女がどうなるか、わかるよね?」

クソッ。

用意周到な河野副社長が黙って引き下がるわけなんてないと、想定しておくべきだった。
俺の読みが甘かった。

「ただ綺麗なだけのお飾り秘書かと思っていたが、こんな才能があったとは驚いた。一体どこで見つけてきたんだね?」
「・・・」

唖然として何も言葉の出てこない俺に対し、冗舌に話し続ける河野副社長。

この人は能力も力もある人だ。今までずっと鈴森商事を支えてきた人なんだ。
本気になれば、彼女の企てを暴くことなどたやすいだろう。
なぜ俺は、そのことに気づかなかったんだ。

「今回の件は私の負けだ。記事も止められてしまったし、川崎紙業との契約も今さら反対する気はない。しかし、追求はそこまでにもらう」

自分が黒幕のくせに、随分と上から目線で言ってくる。
これもすべて、彼女のことでこちらの弱みを握ったからだろう。

「こんなことをしておいて、お辞めになる気はないんですか?」
最後の手段と、良心に訴えてみるが、

「ないね。それとも、専務の秘書を訴えていいのか?」
「それは・・・」

悔しいけれど、腹立たしいけれど、今回はここまでで諦めるしかないだろう。
俺のために動いてくれた彼女を、犯罪者にするわけにはいかない。

「話はついたようだね」
「・・・」

「ことがことだけに社長からもその後の報告を求められるだろうが、そこは専務の方で上手にお願いします。親子なんだから簡単なことでしょう?」
河野副社長はニタニタと笑いながら言い放った。

クソッ。
クソッ、クソッ。
大声で叫びたいのを必死にこらえ、俺は副社長室を後にした。