その日の夕方、俺は時間を作って河野副社長の部屋を訪れた。

「失礼します」
「どうぞ、座ってくれ。秘書は外させたからコーヒーは出ないんだ。すまないね」
「いえ」

別にコーヒーが欲しくて来たわけではない。
俺は、河野副社長との決着を付けるためにここへ来たんだ。


「私の圧力くらいでは、やはり君には通用しなかったね」

ソファーに腰を下ろし、さあどう切り出そうかと思っていると河野副社長の方が口を開いた。

「ご自分が仕掛けたこととお認めになるんですね?」
今さらとは思いながら、本人に確認してみる。

「ここで私が否定したとしても、君のことだから動かぬ証拠を持っているんだろう?」
薄ら笑いを浮かべて、俺を見る河野副社長。

この期に及んでも強気な態度を崩さないのは、ある意味感心してしまう。

「おとなしく退いていただければ、事を荒立てる気はありません」

俺は、辞職を迫った。

今まで何十年もこの会社を支えてきてくれた人だ。その能力も認めているし、恩義だって感じている。だからこそ、できるだけ穏やかにことを終息したい。
それに、ここまで来て往生際の悪いことをするような人ではないはず。
この時の俺はそう思っていた。

「ハハハ。君には負けたよ」
笑い声をあげ、穏やかに俺を見る河野副社長。

これで終わったのか?一瞬そう思った。
しかし、

「その前に、これについて説明してもらえるかね?」

ポンっと机に投げられた書類。

手に取り内容を見た瞬間、俺の顔が引きつった。