トントン。
「はい」
「失礼します」
入ってきたのは山川営業部長。

「山通の件、聞きましたか?」
「ええ。専務もご存じでしたか?」
意外そうな顔をして、俺を見ている。

「元々私が開拓したルートでしたからね、皆川部長が知らせてくれたんです」

「しかし・・・」
不満そうな山川部長。

そりゃあそうだろう。
一企業の搬送時のトラブルに専務が口を挟めば現場としてはやりにくいだろうから。
この反応もわからなくはない。

「山川部長」
少し声のトーンを落とし、俺は彼を呼んだ。

「はい」
顔を上げ俺の方を見た山川部長。

「言いたいことはあるでしょうが、まずはトラブル解決を第一に考えましょう。なんとか山通との妥協点を見つけて、少しでも早く商品を届けたい。その思いは同じはずです。違いますか?」
「いいえ」

山川部長は営業畑の叩き上げ。
豪腕で部下からは恐れられ、上からは融通が利かなくて煙たがられることも多いが、真面目で信頼できる人だ。

「それに、山通は特別ですから」
ポツリと呟いた。
「ええ」
分かっていますと、山川部長は頷いて見せた。

山通は、日本の総合エレクトロニクスメーカーであり、ことコンピューターに関しては国内生産ナンバーワン。爺さんの代から取引があり、うちにとっての大得意先。
どんなことがあっても落とすことはできない。