お姉さんとの話はいつの間にか終わり、何なのかよく知らないまま違う場所へ座っていた。
「ママ!お腹すいた!」
静かなこの空間で、私は構うことなく大きな声でそう言った。
「そうね、今日は晴香が好きなハンバーグにしようか?」
注意することもなく、母はいつものように、笑顔を見せた。
私は嬉しさに、首を思いきり縦に振る。
病院では、特に嫌なことをされることはなかった。
私はそこを出ると、勢いよく走り回る。
「早く帰ってテレビみたい!」
自家用車に近づき、ドアを指して鍵を開けてと伝える。
「晴香、こっちきて」
その時、母は私を抱きしめた。
「ごめんね……」
そして涙を流した。
こんなに嗚咽しているのは初めて見る程に。
なぜ母が泣いているのか、その理由が分からない。
私は誰かを困らせているのか。
迷惑をかけているのか。
この頃は、そんなことを考えもしなかったけれど。
薄暗い雲が包む空の下、微かな風が吹く。
あの時、その場所でひたすら泣く母に何をしてあげれば良かったのか。
時が経った今でも、それは分からない。