「哉あちゃん、無言詣りするん」


昼下がりの歌舞練場では、稽古終わりの舞妓達が揃って膝を合わせていた。
空き部屋でこうして話すのが日課になっていた。

こうも暑いと外にも出られないのだ。


太鼓やら鼓やらある部屋の真ん中で、畳の上で五人の舞妓が持ち寄ったお菓子を摘みながら談笑中。

その中にたか雛の姿と、しま哉の姿もあった。

それから、はる祐とはる乃、だん佳と彼女達は皆んな同じ歳で、同じ時にこの街に来た同期である。

ライバルであり、良き仲間であり、珍しい程に仲が良かった。


話しの発端はしま哉だった。


祇園祭の話しになって、「無言詣りって知ってる?」と言い出したのだ。


たか雛は、はる祐とはる乃が持ってきたわらび餅を口に含みながら、しま哉の顔を見た。



「みんな興味ないん?」

「そんなんいうてもうち恋なんかしてへんし」

「哉あちゃんはあれやろ?尾上さんとこの菊悠さん!」

「え!あれからなんかええ事あったん?」


はる祐はる乃とだん佳が身を乗り出してしま哉に圧をかける。次々喋り出すと止まらないのが彼女達だ。


「ちょっと雛子黙ってんと助けてよ!」

困ったしま哉はわらび餅を頬張るたか雛の腕を掴んだ。


「んっまって哉あちゃんつまる」


きな粉が気管にはいって咳き込むと、だん佳がすぐにお茶をくれた。


「来月哉あちゃんと東京の歌舞伎座行く予定やったけど、うちお邪魔ちゃうー?」


なんて、だん佳が囃立てる。


「哉あちゃん、無言詣りってなに?」


やっと応えたたか雛は、少し胸を押さえながら涙目でみんなの顔を見た。


「ええ、しらへんの雛ちゃん?」


はる乃が高い声で驚く。


「無理もないわ。座敷より舞台の方が多いとそういう話しも入ってけえへんで」


はる祐は納得しながらうんうんと何度か頷いた。

バカにされていることはわかるので、たか雛は少し怒って「なんなんよもう」としま哉に向かった。


「ごめんごめん、無言詣りって言うんわな」