何言ってんのは、こっちのセリフだ。
唇になんて、難易度高すぎる。
そんなの、無理に決まってるじゃない......。
ファーストキスなのにーー。
す、好きな人にキスするなんて......。
そんな勇気、私には無い。
「む、無理......、拓海のバカ!」
私はそう言って、空き教室を逃げ出した。
これが、勝負の負けになるなんて、頭からは既に抜けている。
まず、付き合ってすらいないのに、キスするとかありえない。
私の頭の中には、拓海の顔が張り付いて離れてくれなかった。
「あぁ、もう......むり、こんなにドキドキするなんて」
初めは、私の欲しいものを持って現れた男。
そうとしか思っていなかった。
なのに、こんなにドキドキする羽目になるとはーー。
今考えてみたら、欲しいものが目の前に偶然出てくるなんて、都合が良すぎたんだ。