「お前、歩くの遅いから......」
たしかに、遅いかもしれないけれど、足の長さを考えて欲しい。
背の高い拓海と同じ速さで歩けるはずがない。
途中、前を歩く拓海を見た時に、左耳が紅く染まっていたのは気の所為だろうかーー?
悶々としながら、私は黙って後ろを歩いていた。
だけど、掴まれた手が離される事もなく、息切れもしないまま家に着いた。
ペース、合わせてくれたんだ......。
そんな些細なことで、胸がキュンとした。
ん?ーーキュンとした?私が?
そんなはずはない、きっと、気のせいだ。
そう言い聞かせて、私は家の門を開ける。
「あ、ありがとう」
「いいから、早く入れ」
「うん、また明日......」
私は逃げるように玄関に入った。
まさか、自分からまた明日と言ってしまうとは......。
私はどうしちゃったのだろうーー。
この時はまだ、自分の気持ちの変化に、気づいていなかった。



