・・・6日前 火曜日



昨日交わした約束通り、仕事を定時であがると、彼女から指定された場所へと向かう。

通常定時後は、誰よりも早く退社し、自宅に持ち帰った仕事の続きをするのがお決まりのルーティンなのだが、今週は残る週末までの6日間、時間外は森野さんに協力する約束をしたので、さすがにこなせる業務量は半減してしまう。

念のため専務には昨夜のうちに、一週間だけ仕事量を抑えてもらえるよう、伺いを立てておいた。

『女か』

開口一番、含みのある声が返ってくる。

変に詮索されては困るので、単に用事ができたと言っただけなのに、何かを勘繰ったらしい。

『緊急性の高いものは優先して行いますので』
『はぐらかしたな』
『専務、あまり私のプライベートを詮索なさらない方が賢明かと』
『なんだ、俺をパワハラで訴えるとでも?』
『とんでもない、そんな勝ち目のない試合はしませんよ…ただ』
『ん?』
『こう、私のプライベートな部分に踏み込まれるようですと、私も奥様にいろいろと…』
『フンッ…そうきたか』
『まだ私、何も言っておりませんが?』
『もういい、わかった、皆まで言うな』

電話の先では、拗ねたような声で『仕事のことは気にするな、まぁうまくやれ』と、一方的に電話を切られた。

専務にはこれが一番効くことは、この数年間で学習済みだ。

良いのか悪いのか、毎朝のように届く専務からの社内メールも、今朝は仕事のことには一切触れずに、たった一言”結果は報告しろ”という短いメッセージに添えて、女性の好きそうな店のリストの添付。

全くあの人は、何を考えているのか…

そもそも、この歳になれば、女性の扱いくらい、わかりきっている。

特定の恋人を作らないのも、敢えて今は仕事に専念したいだけで、別段困っているわけじゃないというのに。