『な、何よッ、こっちだって時枝君が本物の恋人じゃないってバレたら、ホントに現実の男と付き合わされるかもしれないんだから、バレたら困るのは、一緒でしょ?』

何故か、涙目になりながらも、懸命に訴える彼女に、始めて”あれ?”と違和感を覚える。

その様子から、どうやら雑誌のモデルが自分(如月)だと気付いているわけではなく、単純に、見られたいくつかの冊子のジャンルから、俺(時枝)の性的指向を勘違いしているだけなのかもしれない。

第一冷静に考えたら、”時枝拓真”の自分しか知らない彼女が、写真を見ただけで、モデルが俺(如月)だと、わかるはずもなかった。

目の前では、秘密をバラすつもりはないのだと、必死に訴える彼女。

『…わかりました』
『え?』
『森野さんのお願い、引き受けます』

気付けば、その申し出を受け入れることを約束していた。

一転して引き受けた自分に、キョトンとした様子の森野さん。

続けて『ただし…』と、交換条件を付け足した。

もちろん、この時はまだ、具体的な”お願い”など考えてはいない。

ただ、この一週間で万が一にも素性がバレないとも限らず、自分にとっては、それなりのリスクを伴う契約になりそうだったんで、ちょっとした保険をかけておきたかったから。

どうやら彼女にも、人には言えない事情がありそうだし、ここはお互い50/50でいきたいところ。

そんなこちらの意図を知ってか知らずか、出した条件は案外すんなりと受け入れられた。

ホッとした顔を見せる彼女に、それだけの事情があるということなのかもしれないが、その警戒心の無さには、呆れてしまう。