正直言うと、彼女の年齢の割に少々子供じみた恋人像には吹き出しそうになったが、こちらは冷静に対応するしかない。

『…時枝君なら、絶対安全だと思って』

強く確信を持った口調で、自分を選んだ理由を述べられ、一瞬全く反対の意味で使う”危険”の言い間違えかと、彼女を見据えると、何故かいつもの彼女らしからぬ、やけに大人びだ表情をこちらに向け、静かに問われる。

『時枝君…あなた何か隠してることない?』

我ながら、動揺が完全に顔に出てしまった。

まさか…と思う反面、そもそもこの一年バレなかったことの方が、奇蹟かもしれない。

目の前の森野さんが迫るように近づき、情けないことにドクッと心臓が跳ね上がり、緊張が走る。

背中に当たるコンクリートの冷たい壁。

どう考えても自分に追いつくはずのない背を懸命に伸ばし、真後ろの壁に手をつかれると、愛らしい瞳でジッと見つめられる。

ドキッ…

『例えば…』

背にする壁の冷たさを感じつつ、耳元で森野さんが囁く。

『女性よりも男性の方が好き…とか』
『なッ…!!』

彼女が発した言葉と、ホール内に反響して大きく響いてしまった自分の声に驚き、咄嗟に口元を押えた。