その、頼みごとの報酬にしては高額すぎることや、彼女の真に迫った訴えに、少なからず興味を惹かれた俺は、同僚の”時枝”として、具体的な内容を聞くも、その内容に尚更驚いた。

『リアルって…』
『あ、違う違う!そのリアルじゃなくって、えっと…普通の彼氏って意味で…』

言い換える彼女に、心の中で”どう違うんだ?”とも思ったが、話をよく聞けば、どうやら今週末の日曜までに、何らかの事情で自分の”恋人役”が必要になったらしい。

不意に、素朴な疑問が口を次いで出てしまう。

『森野さんって、彼氏…いないんですか?』
『現実にいたら、時枝君に頼まないよ』

きっぱりと言われ、彼女のその様子から、嘘をついているわけでは無さそうだ。

実のところ、社内での彼女は、もっぱら1年近く交際している医療関係の彼がいて、結婚も間近だという噂があり、泣く泣く諦めざる得ない男性社員も多くいるのだから、ますます予想外の頼み事。

それよりも、仮初めとは言え、なぜこんな怪しげな”時枝拓真”を恋人役に選んでいるのか、その方が謎だった。

もちろん、”如月”の自分であれば、その意味もあながちわからなくは無いが…。

『恋人役ならもっと適役な人、たくさんいるんじゃ…』

ストレートに疑問を口に出すも、彼女はその質問には答えず、代わりに明日からの毎日、出来るだけリアルな恋人らしくなる為に、協力してもらいたいのだと言う。