・・・7日前 月曜日



『このお金で、時枝君の1週間分の時間をください!!』


…それは、あまりに唐突で、その言葉の意味を飲み込むまでには、しばらく時間がかかった。

”折り入って相談したいことがあります”

昼休み直前、執務室の一番隅っこにある自席のデスクで、解析作業に没頭していると、ほぼチャイムと同時に置かれた小さなメモ。

この手の女性からの呼び出しは、専務秘書時代にはよくあることで、取り立てて珍しくもなかったのだが、当然”時枝拓真”としては初めてのことで、少なからず警戒してしまう。

彼女の名は、森野萌。

同じ総務課の庶務を担当してる女性で、確か入社は自分より早いが、年齢は20代半ばで、2つ程歳下のはず。

ただし、その小柄な体形が少し幼く見えてしまい、実年齢より幾分若く見える。

正直最初は、何か罰ゲーム的なものなのかもしれないと、疑ってもいたが、呼び出された場所に現れた彼女の後ろからは、誰かがつけている気配もなく、完全に一人の様子。

とはいえ安易に警戒は解かず、埃っぽく薄暗いその場所で、この一年の間にすっかり身についた”時枝拓真”になりきって、質問を返す。

『あの…森野さん?それはいったいどういう…』

戸惑いの演技で対応するも、次に突き付けられた封筒の中身の、あまりに想定外の金額に、一瞬”時枝の演技”を忘れてしまったほど、動揺してしまう。

慌てて突き返すも、そのお金は、自分への一週間分の報酬とその口止め料も含むのだと、譲らない。