翌週、俺は杉崎専務から指定された、”変装セット(?)”を使用し、中途採用の”時枝拓真”として、半年振りに出勤。

幸い…と言っていいのか、配属された総務課には、知った顔が一人もいなかったことが緊張感を半減してくれて、初日こそ気が張っていたものの、案外すんなり”別人”を演じ切ることができた。

それもそのはず。

”演じる”と言っても、せいぜい長身を誤魔化す為に所作を猫背にするくらいで、後はただ寡黙に大人しくしているだけで良いのだから、楽なものだ。

それに、専務の見立てが流石と言うべきか、あの”変装セット”が功を奏しているのか、見るからに怪しい雰囲気が増長され、女性はもちろんのこと、同僚の誰もが仕事以外では話しかけても来ない。

何かと騒がしかった半年前の自分と比べたら、驚くほどの静けさだったが、むしろ通常(総務課)の仕事以外に、容赦なく送られてくる杉崎専務からの業務依頼に取り組むには、最適の環境だ。


こうして俺は、日中は”時枝拓真”として総務課の雑用を適度に行いつつ、コンスタントに来る杉崎専務からの密命をこなすという、二重の”偽りの生活”がスタートした。