「人と話すのが何千年ぶりって……」

「あまり私を見える者が少なくてな」

「はぁ……」

いまいちよくわからないが、やはり咲耶姫様は見えてはいけない存在なのかもしれない。

「そういうわけで、私はお前と色々話がしたいのだ」

「えーっと、何千年ぶりかの人間とのお話が、私でいいのでしょうか」

伺うように聞くと、咲耶姫様は楽しげに大きく頷く。若干ワクワクしているようにも感じるけれど、気のせいだろうか?

「えっと、じゃあ今日はさながら女子会って感じですかね?」

調子に乗った私が宣言すると、咲耶姫様は不思議そうな顔をする。

「じょしかい?」

「そうです。女子会とは、女子だけで話したり食べたりわいわい盛り上がる楽しい会なのですよ」

「何を話すのだ?」

「何でも。たわいもない話から恋愛話まで。何でもいいんですよ」

神様にこんなこと言っていいものかと後から後悔の念がわきあがったが、気さくな咲耶姫様にほだされて、私はずいぶんリラックスしていた。

咲耶姫様は顎に手を当ててしばらく考えた後、とんでもないことを言い出した。

「ふむ、では私はそなたの恋愛話が聞きたい」

「えっ、ちょっ、マジですか?」

「こんな真っ暗な山へ置き去りにするという彼氏はどんなやつなのだ?」

「あーー……」

私は頭を抱えた。
そういえばそうだった。
思い出すとムカムカする。
そうだよ、私は高志に置き去りにされてこんなことになっているんだった。
高志め、よくも私を置き去りにしたわね。
不満や愚痴がどんどんわきあがってくる。
恋愛話が聞きたいと言われても、今の私にはドキドキする話なんかまったくなく愚痴しか出てこないのに、そんな話でいいものかと一瞬躊躇ったけれど、興味津々な咲耶姫様の瞳が早く話せとばかりに視線を送ってくる。

「愚痴になっちゃいますよ?」

「よいぞ。さあ、聞こうか」

そのプレッシャーは半端なく、咲耶姫様の視線が痛い。