「さて、落ち着いたようだな」

私の様子を見て、美人さんがしっとりと語りかける。

「はい、いろいろとすみません」

私は姿勢を正して頭を下げた。
勝手に上がった挙げ句、着替えまで貸してもらったのだから。

「夜の山は危ない。滑落したり野生動物に襲われたらどうするのだ?しかもなぜそんな軽装で山に来た?山を舐めてはならぬ」

急に厳しい声色になり、私は改めて背筋を伸ばす。説教されるのは当たり前で、それほど私は山に相応しくない格好だったのだ。
そもそも山に来ること事態想定外だったのだが、そんな事を言い訳にしても仕方がない。

「はい、すみませんでした。ちょっと彼氏とケンカして置き去りにされて。ああ、いや、そんなことより、助けていただいてありがとうございます。えっと、あなたはこの神社を管理している方なのでしょうか?」

「私は山の神だ」

「…………?」

ちょっと言っている意味がわからなくて、思わずポカンとしてしまう。
ええっと……?

「やまのかみ?神様の神?」

「名を咲耶姫(さくやひめ)と言う」

「えっ?神様?さくやひめ……様?えっ?」

美人さん、いや、咲耶姫様はまたしても妖艶に笑った。

何だろう?
実は私、死んだのだろうか?
雷に打たれたとか、滑落したとか、はたまた凍死とか、そんな感じ?

まったくもって今の状況を理解できない私だったが、なぜか咲耶姫様は楽しそうに微笑んだ。