「やべ。部長帰ってきた。」
どういう事だと訊く前に、出先から戻ってきた部長をいち早く確認した同僚は、さっさと仕事に戻ってしまった。
なんだよ、谷口係って。
いや、突っ込んで問い詰める方が面倒くさい。非効率。ムダ。
イライラとした感情を抑え込み、再びキーボードを叩く。
集中すれば、イライラも消えていく。
イライラするなんて、全くもってムダだ。
しばらくして、谷口が課長のデスクから戻ったのを目の端に捉えた。
ひどく落ち込んではいるが、泣いてはいない。
課長からあれだけ怒った声音で説教をくらえば、大抵の女子社員は泣いてしまうものだが、あいつは下唇をきゅっと結んで自分のデスクに座った。
弱いんだか、強いんだか。