始業から少しして、他の部署へ行く用事が出来て、席を立った。



ついでにコーヒーでも買うか。





「か、神崎さん!ちょっといいですか?」





自販機の前に立ち、ブラックかカフェオレかで悩んでいると、谷口が握りこぶしを作って立っていた。





「……おう。」




そういえば、挨拶以外で社内で話しかけられる事ってないな。

緊張してんのか。





「や、やややりました!ラ、ラ、ランチ!井村さんと山岸さんと!」


「……!やったじゃねぇか!」


「はい!」




満面の笑顔に俺も嬉しくなり、思わず谷口の頭をポンポンと叩いた。

見た目通り、柔らかくてふわふわの髪の毛の感触が心地いい。





「わわっ!あ、あありがとうございます!」





握りこぶしの説教は、今は止めといてやろう。

が、


「おい。まさかと思うが、そのどもり口調で誘ったんじゃねぇだろうな?」


「な!違いますよ!今のは、嬉しくて、興奮しちゃっただけで!」


「ハハ!わかってるよ。ランチ楽しんでこいよ。」


「はい!」




笑顔で返事をすると、小走りで戻って行った。



俺が席を立つタイミングで話し掛けてきたのか。迷惑にならないように。

ちょこちょこと走る小さな背中に、思わず頬が緩んだ。