「おーい、小原、こっちこっち。待たせたな。」


そう、今日は約束の日。


旗本先生の奥さんにお会いする日だ。


「よし、早速入るか。」


旗本先生の奥さん、真夏さんは小柄な人だった。


旗本先生とは11歳差。つまり俺の1歳上。それに、俺と相原の差と同じ。


「あなたが小原先生ね。秋斗さん、と呼んでいいですか?」


「はい、いつも旗本先生にはお世話になっています。」


「先生からよく聞きます。『10年前に戻ったみたいだ』、なんて。私もその話を聞いてとても懐かしくて…」


真夏さんはとてもおっとりした感じの人だ。


在学中はやっぱり辛かったという。


「先生も、秋斗さんみたいに『教師と生徒』って強調してたの。私からしたら、確かに先生だけど、それ以前に好きな人なの。"好きになった人が先生"だっただけ。でも、先生の立場なら違うのね。」


「俺は、俺達はやっぱり教師という仕事を責任持ってこなしている、という部分があるのかな。だからたとえ好きであっても突き放すしかない。俺からすれば、仮に相原が運命の人だったとしても、相原にはまだまだ出会いはたくさんある、と思ってしまうから…」