「私のお母さんが眠ったまま死んだから。」



「っ……は?」


お母さん?

先月円が休んでた身内の不幸って、
母親だったのか。


円の表情は相変わらず変化なく、
感情を読み取ることができない。


「病気ってことか?」

「うん。
だから、悩みがあって眠れないとかじゃなくて
眠るのが怖い。
眠ったら…死んでしまいそうで。」


円は瞳を揺らして俺から目をそらした。


「そんなわけないだろ。
お前、身体は健康なんだし…」

「そんなわけないってことくらい、
私が一番知ってるよ。」

「……。
じゃあお母さんが亡くなってから
ずっと不眠症ってことかよ。」

「うん。命日が4月22日だから、
3週間くらいだね。」

「毎日どれくらい寝てるんだ?」

「夜は一睡もできない。
授業中にずっとうとうとしてる。」

「はっ…!?それだけ…?」

「だからこんなに必死になってるんだよ。」


円は細い腕でベッドにしていた椅子を持ち上げ、定位置に戻している。


こいつの不眠症って相当ヤバイんじゃないか?

夜少しも寝ないなんて、
聞いたことがない。