「……っ、
ありがとう…」


お父さんは目頭を押さえ、涙を拭っていた。

なんか漠然と怒られたりするのかと思っていたから、私はあっけにとられた。


「なになに?
円ちゃん、このイケメンさんと付き合ってるの!?」

「え、うん。」

「やだ、いいわねぇ。」
「ちょっと(さとる)さん、なに泣いてるの!」

叔母さんたちがお父さんの背中をビシビシ叩くけど、お父さんの涙は止まる気配がない。


「宮くん…ありがとう。」

「……」

「円の生きる希望になってくれて…
ありがとう。」


そう。
そうだ。

私…この世にいない方がいいと思ったときもあったんだ。

凍ったように動かない心に、嫌気がさしたときもあった。

倒れるまで眠れないときもあった。

折れそうなとき…
いつも宮が私の希望だった。


朝から喉の奥に溜め込んできた涙が、
堰を切ったように溢れてきた。


「…っありがとう…ありがとう」
お父さんは泣きながら何度もお礼を言う。


「…いえ。」
宮はそれだけ言って、机の下で私の手を握った。


私は声を出すことができなかった。
でも、宮の手を強く、強く握り返していた。