緋奈side

「よしっ…今日はこれで終わり!!」

高校2年生になり、図書委員会に入った私は
放課後になるといつもこうして1人作業を
進めている。

本当はもう1人黒崎 蓮君も図書委員なのだが
放課後は部活が忙しくて来れないことの方が多い...というか一度も来たことがない。

「放課後は仕事多くないし、気にせず部活頑張ってね!」

っと伝えてあるが、黒崎君はどこか不満そうだった。

黒崎君は学校一のイケメンさんでテストではいつも学年トップ、そのうえサッカー部に所属していて運動神経もいいときたもんだから
女子が黙っているはずがない。

クラスでもいつも周りを女子で囲まれている

黒崎君は鬱陶しそうにいつも女子を睨みつけているが、女子の間では睨む姿もかっこいいとか…。

とにかく私とは世界が違う人なのだ。

「おっと、もう4時だ!バイトに遅れちゃう💦」


父と母を2年前に事故で亡くし、頼れる親戚もいなかった私、浅倉 緋奈は今年5歳になるばかりの弟、光と2人でアパートに暮らしをしている。

家賃や生活費は自分で稼がなきゃ行けないため、毎日バイト漬けの日々を送っている。


最初は慣れないバイト生活で疲れてしまうことも多かったが、光の笑顔を見てると疲れも吹き飛んだ。


今日も7時過ぎまでバイトをし、光を保育園まで迎えに行く。
その後2人で夕食を食べお風呂に入る、
光を寝かしつけたら学校から出されている課題を終わらせ、テスト勉強をする。

それほど頭の良くない私は赤点で補習だけにはならないよういつも必死だ。(赤点で補習になったらバイト出来なくなっちゃう…)


それでも睡魔に勝てず気づいたら眠りに落ちていた。


早朝、郵便配達のバイトを終わらせ
光を保育園まで送り届ける。

朝食を食べている時間が無いので毎日学校で
弁当を食べている。

「もぉー!また学校で食べてる(笑)たまにはバイト休んで息抜きしたら?体調崩すよ?」

そう言って苦笑しながら右斜め前の席に着いたこの子は 新井 心。中学校からの親友で私の家庭の事情を知っていつも気にかけてくれている。

「ありがとぉ(笑)でも大丈夫、私体は丈夫だから!」

「緋奈ったらぁ、まぁ辛くなったらいつでも言いなよ?」

「いつもありがとっ」

ガラガラガラ 先生が入ってきたので私は急いで弁当を片付ける。
「おはよう。ホームルーム始めるぞー
あっ今日は席替えもするか」

(席替えかぁ、心と離れちゃうな)

席替えはクジを引いて決める方式。
私は窓側から2番目の列の1番後ろだった。
(隣は誰かな)

席を移動し隣を確認して思わずドキっとしてしまった。隣はなんと黒崎君だった。

それに気づいた周りの女子が

「浅倉さん!!お願い、席変わって!!」

「え?うん、いいよ」
(黒崎君も私なんかの隣じゃ嫌だろうし)

席を移動しようとした私の腕を隣からいきなりつかまれた。驚いて隣を見ると

「クジで決めたんだから俺の隣は浅倉だ。」

とぶっきらぼうに言って女子を、睨みつけた。 その後先生にもクジで決めたから席の変更はなしだと注意され私は黒崎君の隣の席になった。

びっくりしたぁ。これから黒崎君にか迷惑けないようにしないと…

放課後になり図書室へ行こうと廊下に出たとき、黒崎君に話しかけられた。

「今日も委員会の仕事あるか?」

「え?!あ、あるよ?」

「じゃあ、俺も行く。今日部活ないから」

そう言って私の隣を、歩き始めた。

(黒崎君と一緒だと緊張するなぁ、まぁ二人でやった方がす早く終わっすぐバイト行けるか。)

図書室につき、早速机に積まれている50冊程の本を棚にしまおうとすると

「これ全部棚に戻すのか?」

「うん、図書室結構利用者多いみたいで毎日このぐらいさ返却れるみたい」

「へぇ…」

(どうしてそんなこと聞いたんだろう)
とにかく、早く終わらせてバイト行かないと!

…ふと視線を感じて黒崎君の方を見る。
黒崎君はじっと私の方を見ていた。

「ど、どうかした?」

綺麗な瞳をした黒崎君に見つめられるといちいちドキっとしてしまう。

「普通に大変な仕事じゃん、これ。前仕事は多くないって言ってなかったっけ?」

「あ、うん。黒崎君部活忙しそうだしこれぐらいなら私一人でできるから、いいかなっと思って。」

「はああぁ…」

黒崎君が大きく、ため息をつい。

「え?!どうしたの?」

「…なんでもない。とにかくこれからは俺も来れる時来て手伝うから、部活前とか。」

「ええ?!そんないいよいいよ」

「いいから!俺も図書委員だし」

「んん、分かったけど無理はしないでね!
黒崎君がいると心強いね。ありがとう」

私はニコッと笑いかけた。
すると黒崎君は手でバっと顔を隠しぼそっと
「…ずるい」
と言った。

なにを言ってるか聞き取れなかった私はただの独り言だろうと思って作業を始めた。

4時すぎ、そろそろバイトの時間か、。

「黒崎君、ごめん私この後バイトあるもんで帰ってもいいかな?」
(まだ半分も残っているのに申し訳ない…)

「いいけど、バイトの時間早いね。部活とか入ってないの?」

「うん、部活入るとお金かかるし、。弟の面倒とかも見ないといけないしね(笑)」

「そっか。お金の心配とか弟の面倒とか、偉いね。お母さんにもよく褒められるでしょ?」

「お母さん」という言葉に体が一瞬、強ばるのが分かった。お思い出さないようにしていたお母さんの姿を思い出してしまった。

「…浅倉?大丈夫か?」

「あっうん!大丈夫。全然褒められないよ(笑)いつも怒られてばっかり」

「まじで?(笑)浅倉が怒られてるの想像つかないわ。浅倉の家賑やかそうだな」

「…うん。すごく賑やかだよ(笑)毎日楽しい」

「そうか。あっ悪いそろそろ時間だよな。また明日」

「うん!また明日」

私は逃げるように図書室を後にした。
(はぁ、もうお父さんとお母さんのこと思い出しても大丈夫だとおもったんだけどなぁ)
自分の情けなさに一人、笑ってしまった。




次の日の朝私は心の席へと避難していた。
教室に入った時にはもう自分の席は黒崎君と話したい女の達に占領されていた。

「あんな無愛想なやつのどこがいいんだか」

ぶつぶつと文句を言う心に昨日の図書室での出来事を話した。


「緋奈…大丈夫?ほんとに辛くなったときは相談してよ?」

「うん!大丈夫大丈夫!心配してくれてありがとう」
(これ以上心かけに迷惑なんてられないよ)
私はニコッと笑いかけた。

「あっそういえば、私先生に呼び出されてたんだった!ちょっと行ってくるね」

私は時計を見ながら急いで教室を出た。


心side

緋奈…。ほんとに大丈夫だろうか。
緋奈はいつも私に気を使って愚痴のひとつも言わない。ほんとうはお母さんとお父さんを亡くして、辛いはずなのに、。
私じゃ緋奈なの力にはれないのかな。
…直接力になれなくても、緋奈を支えてあげないと。

黒崎の方を睨みつけた。
あいつ、緋奈の事情を知らないからしょうがないとしても緋奈の傷口をえぐるようなことしやがって。

それに、緋奈にあんまり近づけない方がいいな。
もし、緋奈と黒崎が2人で委員会してる所なんか女子たちに見られた時は緋奈がいじめの標的になってしまう、。
それだけは避けたい。

「黒崎!ちょっと話あるんだけど。」

黒崎は一瞬驚いた表情をしたがすぐいつもの涼し気な顔に戻り、私に着いてきた。

「黒崎さ、緋奈に近づくの辞めてくんない?委員会なら私代わりにやっとくからさ。」

「は?俺の仕事だから俺がやる。」

「よく言うよ。今まで緋奈1人にやらせてきたくせに」

「それは、、悪かった。あんな大変な仕事じゃないと思ったんだ。浅倉も一人で大丈夫って言ってたし」

一人で大丈夫…そんなわけないじゃん。
緋奈は…緋奈はずっと一人で辛い思いしてきたんだよっ!!

「緋奈が、一人で大丈夫なわけないじゃん!!あの子はずっと一人で…ずっと、辛いんだよ。」

あぁ、もうなんで私が泣いてるんだよ。
な泣きたくて泣けないのは緋奈なのに、

「それ、どういう意味?」

黒崎は何のことか分からないと言う顔をしてこちらを見ていた。

「緋奈には、もうお父さんもお母さんもいないんだよ...」

「何言ってんの?浅倉昨日お母さんによく怒られるって、家が賑やかだって言ってたぞ」

こいつは...!!

「そんなの、嘘に決まってるじゃない!緋奈は弟と2人でアパート暮らしなの。その生活費を稼ぐために一人で毎日毎日バイトしてるの!!」

話してて辛くなってくる。
何で緋奈がこんな辛い思いしなきゃいけないの、何で!!

「...浅倉と話す。」

「やめてよ!また緋奈を傷つける気⁉︎」

「違う!!!絶対傷付けない。」

黒崎の真剣な瞳を見て私は黒崎を信じてみることにした。

「約束してよね。緋奈を泣かさないで。」


黒崎saido


俺が浅倉のことを知ったのは3年前、中学3年生の頃だ。

その日は2歳になったばかりの弟裕樹(ゆうき)を連れて散歩をしていた。

裕樹がアイスを食べたいと駄々をこね出したので俺は裕樹をベンチで待たせてアイスを買いに行くことにした。

「いいか、ここから絶対に動くんじゃないぞ?すぐそこの店でアイス買ってきてやるからな」

「うん!待ってる!」

俺は急いで店に行きアイスを買って裕樹の待つベンチへと向かった。

....裕樹?そこにいるはずの裕樹がいなかった。

「裕樹?!おい!裕樹どこだ?!」

俺は裕樹の名前を叫びながら必死で探し回った。
やっと横断歩道の前で裕樹を見つけた。

安心したのもつかの間、裕樹は信号が赤だということに気づいていないのか横断歩道を渡ろうとしていた。

ちょうどその時、大型トラックが走ってきた

「裕樹!!戻れ!!」

俺は裕樹の名前を叫んだ...だが裕樹に俺の声は届かなかった。

ひかれる...!!そう思った瞬間俺は目をつぶっていた。

だが、ぶつかった音がしなかったので俺は恐る恐る目を開けた。

そこには、裕樹を抱え込んでいる女の子の姿が映った。

俺と裕樹はその人に何度もお礼を言った。

「全然大丈夫ですよ!怪我がなくてよかったです。今度からは気をつけようね?」

その人は足や腕、顔などをすりむいていた。
家で手当てしますと言ったが

「この後バイトが入ってるのでお気持ちだけ受け取りますね。ありがとうございます」

その人は柔らかい笑顔で俺にお礼を言った。
助けられたのはこっちなのに...

せめてお礼をしに行きたくて名前を聞こうとしたときにはその人はもういなかった。

(名前聞けなかったな)

ふと足元を見ると、プリントが一枚落ちていた。どうやらあの人のもののようだ。

「浅倉 緋奈」

覚えておこう。

名前は知れたものの住所など分からず結局お礼をしにいくことが出来なかった。


高校二年生になり浅倉が同じクラスにいた時はほんとに驚いた。

それから俺はずっと浅倉のことを見ていた。

見ていて分かったことがある。
浅倉は超がつくほどお人好しでよ周りよく見ている。

掃除当番を代わって欲しいと頼まれたら嫌味ひとつ言わず代わってあげたり、体調が悪そうな子がいたら駆け寄って声をかけたりしている。

自分のことはいつも後回しだ。
(お人好しにも程があるだろ)


今日は席替えをした。
1番最初にくじを引き、俺は窓側1番後ろの席へ移動した。
(隣は誰だろうか。うるさい女子じゃないといいけど)

ガタガタ 隣から机を動かしている音がしたのでチラッと横目で確認した。

「...!!」

浅倉が隣だ。純粋に嬉しかった。
自分の顔が熱くなるのを感じ、自分の気持ちに確信を持った。

ー俺は浅倉が好きだー

何か話しかけてみようか、。
他の女子になら絶対思わないことだ。

「浅倉さん!お願い、席変わって!」

「え?うん、いいよ」

....っは?!
何勝手に変えようとしてんだよ!

気づいたら手が伸びていた。

「クジで決めたんだから俺の隣は浅倉だ」

自分でもびっくりするぐらいきつい目で女子たちを見ていた。

結局隣は浅倉のままで、ほっとため息をついた。

話しかけようとしたがなかなか声をかけれず、結局放課後になってしまった。

委員会に行くと言う浅倉について行き、
図書委員になってから初めて仕事をした。

いつもは部活が忙しく、来れていなかった。
委員会の仕事は思ったよりも大変で
これをいつも浅倉に一人でやらせてたと思うと申し訳なさでいっぱいになった。

浅倉がバイトがあると帰った後
浅倉と話せたと言う余韻に浸っていた。

浅倉は他の女子たちと違って自然体で話しやすい。

明日も話せるだろうか...


次の日浅倉と仲の良い新井に呼び出された。

新井の話を聞いて驚いたと同時に自分の情けなさに苛立った。

俺は浅倉を傷つけてしまっていたのか...?
俺にとって1番大事な女の子を...

今すぐにでも浅倉と話したかった。
だが、教室だとうるさい女子達が寄ってくるので放課後部活を休んで図書室へ行く事にした。


緋奈saido

ガラガラガラ

「....黒崎君⁈どうしたの⁈部活は?」

扉が開く音がしたので振り返ると、そこには黒崎君が立っていた。

「.....」

「黒崎君?」

返事がない。
(不機嫌オーラがすごいけど、どうしたんだろう)

「昨日、ごめん」

「え?!どうしたの急に?!昨日って何かあったっけ?」

いきなり謝られて頭がついていけていない。
(昨日?え?何もなかったよね?!)

「新井に浅倉の家庭事情聞いた。俺昨日無神経だった...」

あっそのことか。

「全然大丈夫だよ!黒崎君は知らなかったんだししょうがないよ」

心だけでなく黒崎君にまで気を使わせてしまった。

「気を使わせちゃってごめんね..私は大丈夫だから!ほんと気にしないでね」

「.....何で」

「えっ?」

「何でいつもそう笑うんだよ?!辛い時は辛いって言えよ!!」

「えっあ、ご、ごめん」

黒崎君が怒る理由が見つからず
いきなりのことに私は驚きを隠せなかった。

「いや、ごめん違う。怒ってるとかじゃないんだ。たださ、浅倉はもっと人に甘えていいんだよ。全部一人で抱え込むなよ。」

次の瞬間、私は黒崎君の腕に包み込まれていた。

「浅倉は、一人じゃないんだ。」

...涙が止まらなかった。
そんな優しい言葉私には勿体なさすぎる。

「ありがとう...ありがとう。」


どうして、どうしてそんなに優しくしてくれるの?

黒崎君の腕の中はとても暖かく久しぶりに
人の温もりに触れた気がした。

黒崎君の腕の中...黒崎君の....腕の中!?
そうだ!頭が混乱して状況が掴めてなかったけど、私今あの黒崎君に