だけど、恋愛経験が全然ない私は、こういう時の逃げ道が分からない。
「と、トイレ行ってくる!」
この言い訳しか思いつかなかった。
映画見てる時は、怖くて途中で動くことなんて出来なかったから、行きたくないと言えば嘘になる。
私は、落ち着くためにも、一旦外に出ようと立ち上がった。
ーーはずだった。
「きゃっ......!」
2時間座りっぱなしだった私の足は、痺れて力が入らず、立とうとした時にもつれて転倒してしまった。
でも、痛くないーー?
「杏から来てくれるなんて、大胆だな」
咄嗟に手は出したけれど、倒れた方向が悪かった。
私が誠也を、押し倒したみたいになっている。
誠也を下敷きにしたおかげで、痛くは無かったけれど、これはこれで恥ずかしい。
「ご、ごめん。そんなつもりはーー」
無かったと言って、直ぐに離れようとしたのに、誠也がそれを許さなかった。
「離れるなんて、許さねぇよ」
そう言われた、一瞬のうちに、私達の立場は逆転する。



