「はあぁ…うっざ。行こう、もう」

「な、行こ」


分が悪くなったらしい3人は、そのまま不機嫌そうに立ち去っていった。

謝ってほしいのは、こっちだったんだけどな…?


でも今はそんなことより、助けてくれたお兄さんにお礼言わなきゃ。

そう思っていると、こちらに振り向いてくれた。


「大丈夫だった?」


お兄さんは、人当たりの良さそうな優しげな雰囲気で、心配そうに目を向けてくる。

私は頷いた。


「あ、肩濡れてる!烏龍茶とかかな…特に匂いしないから、特別シミにはならないと思うけど」


そう呟いて、ポケットから青いタオルハンカチを出して、そっと濡れた箇所に当ててくれる。

暑いからすぐ乾くだろうけど…。
特に用も無いからまっすぐ帰るつもりだったから、家帰ったらすぐ着替えられるし。


「じゃあ、気を付けて帰ってね」


そう言って、お兄さんは優しく微笑んで、歩き出してしまう。

待って!お礼、言えてない!


「……あ、の」


緊張でほとんど出なかった声が届くはずもなく、立ち止まってはくれない。

私は追いかけて、服の裾をキュッと掴んだ。


「ん?」


振り返って、立ち止まってくれた。


「どうしたの?ハンカチ、別に持っていってくれて大丈夫だよ?」


そうじゃない。


「……あ…」


どうして、声出てくれないの!

黙ってたら、お兄さんを困らせることになる。
追いかけてきたくせに、何で黙ってるんだろうって。


「……えっと…」

「うん。急いでないから大丈夫だよ?」


こちらの事情を察したかのように、そう言ってくれる。


「……ありがとう…ございました」

「へっ?え、わざわざそれ言いに追いかけてきてくれたの?」

「……はい」

「そっかそっか。嬉しいな」


これでもかと優しい笑顔を浮かべる。


「どういたしまして!…なんか、逆にありがとう」


私はコクリと会釈して駅へ向かった。

良かった、お礼言えた!