「信長様。」

「おお、戻ったか。」

「あ、帰蝶様。」

「はじめてお会いいたしますね。私帰蝶と申します。」

「私、栄と申します。」

「挨拶は済んだか。それで、どうした」

「こちらの文を。」

「ん?」

一通り目を通す信長。

「やはりそうか。」

「信行様は何かを言い掛かりに、信長様を暗殺なさるおつもりのようです。」

「そうか。」

「会えばよいのです。」

帰蝶がハッキリと言う。

「会う?会ってどうする。」

「信行殿の顔を見て、どうするのか決めるのです。」

「面会の場を設けるのか?」

「斎藤義龍の弟であった孫四郎ほかお二方は、義龍に病と称して誘い込まれ、殺されました。同じようにすれば良いのではないでしょうか。恐らくそこに信行は毒入りの水とやらを持ってくるでしょう」

「ほう。それで逆襲するのか。栄は怖いのう。栄を敵に回せなくなったわ」

「ふふっ。栄殿は私によく似ていらっしゃいますね」

「帰蝶、怖いことを言うな」

「それでは。」



「殿、栄殿は元は良家の姫だったのでしょう?戻して上げた方が良いのでは?」

「ああ、そうだ。だがな、栄は松平の姪。つまり徳川家と関わりがある。栄の家は保科家だ。父上の家臣だったが、松平に嵌められて父上が謀反と勘違いしたのだ。保科家には女しかいない。男の人質を差し出すことは無理だ。そこで栄が忍びとして織田家に貢献するので謀反ではないと信じて欲しいとのことでな。」

「お気の毒に…。」

「栄は良い奴じゃ。妹の華をここに差し出すわけにはいかぬと、自ら志願したとか。あんなに若いのに。まだ成人しておらん。」

「姉妹で仲が良いのですね。殿とは違って。」

「わしも勿論仲良くしたかった。だがな、向こうから、欺いてきたのじゃ。それでも仲良くというわけにはいかぬ。一度許した事もあるんじゃからな。」

「そうですね」