髪の毛をアイロンでストレートに綺麗にまとめ、薄い化粧を施す。鏡台の前の自分の顔はやけに冴えなかった。何の為に髪を綺麗にし、化粧をして顔を整えているのか。大輝さんの時のように胸が高鳴るような、ドキドキするデートでもあるまいし。

小さくため息を吐き、クローゼットを開ける。

何の面白みもない洋服がクローゼット内に広がる。

ワンピースひとつ取ってみても、同じ物ではないかと見間違えるほど似ている洋服ばかり。そのほぼ全てが一流ブランドではあった。

というか幼い頃からブランドの服ばかり着ていたので、私にとってそれは当然。シルエットが綺麗に見える、シンプルな物ばかり。

けれどそんなクローゼットの一角に、カラフルな洋服ばかりかけられるエリアがある。…この洋服たちを私はほぼ着た事がない。一言で言ってしまえば、派手なのだ。

それは幼少期の物から、大きくなった時まで様々なサイズがある。その全てが潤がプレゼントしてくれた物。昔から洋服造りが趣味であった潤が、私の為に作ってくれた全て1点ものである。

素人が作ったとは思えない、1着1着大切に作られた美しい洋服たちだった。

「懐かしいな……」

ひとつ手に取ってみる。それは小学生の時に潤が作ったチェリーの柄が入っているワンピースである。

「可愛い…」

ひとりきりになった時たまに部屋で潤の作ったカラフルな洋服を着ていた。

でもそれを着て父の前へ出る勇気も、どこかへ出かける勇気も私には無かった。

お気に入りで、未だに小さい頃の服まで捨てきれないくせに、大切に大切に取ってあった。

チェリー柄のワンピースをクローゼットに戻し、白に近いピンク色のシンプルなワンピースを手に取る。季節はすっかり春だ。今日は気温も上がると言っていた。羽織は必要ないだろう。