「馬鹿か、そんなの小さい頃の口約束じゃないか!」

「いいじゃねぇか、口約束でも。お前と菫は結構お似合いだとは思うけどね。ねーとーさん!」

「俺は…潤が結婚したいと思う相手なら誰でも大歓迎だ」

「もー、あんたは!まぁ菫とお前が結婚となっても、あの篠崎のとーちゃんが許さねぇだろーけどなー!
潤くんはS.A.Kを継がないじゃないですか!とか意味わからん事言って。
全く篠崎のとーちゃんは頭が固いんだよ。今どき政略結婚なんざ流行らないだろーがよッ!」

よく喋る人だ。まぁそれは昔からなのだが。

母親が太陽のような家庭は円満なのだと言う。

だからとーちゃんが少し位ボンヤリとしていても、うちは太陽のように明るいかーちゃんがいるから安泰なのだ。

夕食を終えて、少しばかりリビングでふたりと話をしてから、お風呂に入って部屋に戻る。

ふと菫の部屋の窓に目をやるとぴしゃり閉められており、電気もついていない。

こうやって口喧嘩をするのは、昔からよくある事だった。意地っ張りな菫は絶対に自分から謝って来る事はなくって、いつも俺が折れていた。

けれどそれも隣同士で暮らしていたからこそ。大人になってからの喧嘩の仲直りは難しい。昔はよく一緒に演奏をすればいつの間にか仲直り出来ていた筈だが、現在は菫にも俺にも仕事があってそれぞれの生活がある。

そりゃー昔のように上手くはいかないさ。




あんなに近いと思っていたのに、遠くなってしまうなんて想像さえもした事がなかった。
明かりの灯らない部屋の窓を見てため息が漏れて、消えて行った。

菫、本当にそれでいいのか?問いかけてももう返事は返ってこなかった。