泣きそうになるのに、絶対に泣かない。それは分かっていた。

菫は笑った後に眉毛を下げて泣きそうな顔をして、唇を噛んで涙を堪えている。

そんな強い君が好きだ――

「菫、家に帰ろう」

「そういうと思った。でも嫌…」

「ずっとずっと帰ろうって話じゃないんだ。今はおじちゃんの体が落ち着くまで帰った方がいいって話。
それできちんとふたりでおじちゃんと話し合って、認めて貰おう。こうやって俺と暮らしてたっておじちゃんの事を考えてしまうならばそれは菫の望んでいる自由とは違う」

「それでも嫌。私潤と一緒にいたいもん。
それに二度と潤と暮らせなくなったら嫌なの。私がいなくなったら潤の周りは魅力的な女の子たちが沢山いる。
そしたら潤の気持ちも変わってしまうかもしれないし……一緒にいないと不安になってしまう。もう離したくない」

「大丈夫。俺の気持ちはずっと変わらない
菫は馬鹿だなー。俺の気持ちが変わるわけないだろう。変わってたらずっと昔にした約束なんてとっくに忘れちゃうよ。
菫は俺にとってただの幼馴染なんかじゃないんだから」

「潤と一緒にいたいの」

頑なに潤と一緒にいたいと繰り返す菫。そんな可愛い事ばかり言ってくれるのは嬉しいんだけど…。

「大丈夫だよ。必ずおじちゃんも説得するし、また一緒に暮らせるようになる。
菫がこの変わったデザイナーズマンションで良ければの話だけど。
そして今度は菫が気に入った猫を飼おう」

抱きしめて、キスを贈ると、菫はより一層切ない顔をする。
それでもその瞳に涙はなかった。