その話を聞いてもっと切なくなった。

自分の夢を捨てて、おばちゃんや家族を守ってきた人。

立派な父親だ。それを菫も理解しているに違いない。けれどどうしても素直になれなかった。


家に着くと、既に0時を回っていた。

リビングの電気は消えており、寝室にはベッドに寝て頭から布団を被っている菫がいた。

ドアを開けた瞬間びくりっとシーツが動いたから、それが狸寝入りだというのには直ぐ気づいた。…そういう所まで、菫はおじちゃんそっくりで何故か笑えた。

「すーみれ?」

布団を捲ったら恨めしそうにこちらを睨む菫の姿があった。

俺を見るなりぷいっと顔を横に背ける。

…まったく親子揃って。

ベッド脇に腰をおろして、静かに口を開く。

「菫……おじちゃんの具合いは相当悪いみたいだ。これから緊急手術になってもしかしたら意識が戻らない可能性があるって…」

そこまで言ったら菫は慌てて布団から飛び上がり、俺の胸倉を強く握った。

「お父さんがき、緊急手術?!意識が戻らない?!
嘘でしょ?!ねぇ!!!わ、わたし病院に行くッ!」

その焦りの表情で菫がおじちゃんを心から大切にしているのを痛感した。
思わず笑みが零れ落ちた。

「なーなんて嘘だけど」

「はぁ?!さいっていよ!そんな嘘をつくなんて!!」

怒った菫は俺の頭を殴り、再び布団を頭から被る。

「おじちゃんは、大丈夫。
疲労で倒れただけだって。睡眠不足やご飯をちゃんと食べていなかったから栄養失調にもなっていたみたい。
念のため一晩病院には入院するみたいだけど…」

「そう………」