「け、結婚など…!ゴホッ、ゴホッ」

慌てて椅子から立ち上がって、苦しそうに胸を抑えるおじちゃんの背中に手を添えた。

それを振り払う事はもうなかったけれど、憎たらしそうにこちらを見つめる瞳は変わらずっていった所か。

「もー無理しないでよ。
菫は家にいる限り心配はないし、きちんと家にも一度帰すから…
おじちゃんもあんまり心配しないで?仕事をきちんとするのは立派な事だし、篠崎リゾートの社長ってプレッシャーもあるかもしれないけど、さっきの大地が言った通り健康があってこそだよ。
だから忙しくてもちゃんと寝て、ご飯も食べてね?」

「だから何故私が君のような小僧に……」

「だから今はゆっくり休めって。ちゃんと約束は守るから、ね?」

拗ねた姿は菫そっくりだ。

これが全くの赤の他人であったのならば、このクソジジイとなっていた事だろう。

けれども菫そっくりのおじちゃんを憎む事はこの先だってない。絶対にない。

おじちゃんはベッドの上で背中を向けて寝てしまったけれど、それ以上は何も言う事はなかった。

この人は悪い人ではない。ただ娘を心配し過ぎてしまう過保護な父親ってだけだ。



入院の手続きを済ませた大地とおばちゃんが帰って来て、おばちゃんは病院の入り口まで送ってくれた。

菫が勘違いしてしまう程弱々しいおばちゃん。小さい頃から病気がちでどこか頼りのなさそうな人だが、実は芯がとても強い人だという事も知っている。

暗がりの病院でおばちゃんが静かに口を開く。