「大丈夫。命にかかわる病気とかではないって…。
疲労で倒れたそうだ。救急車で運ばれたみたい。だから数日入院するだけだって。とりあえず病院に行こう」

立ち上がり慌ただしく用意を始める潤。着替えをして家の戸締りを確認して、車の鍵を手に持つ。

そんな潤を尻目に私は暫くその場から動けずにいた。いつまでも立ち上がろうとしない私の腕を潤が掴む。

「菫?どうした?」

「…私は、行かないわ…」

「はぁ?!」

その言葉に潤は眉をしかめる。

平静を保とうと笑顔を作る。上手く笑えていたかは分からないけど。

「だってただの過労でしょう?命にかかわる病気とかじゃないんでしょ?
それなら行く必要ないわ……」

「お前それ本気で言ってんのか?」

「それに演技かもしれないわ。私を連れ戻したいが為の。そうよ。きっとそうに違いないわ。
お父さんは昔から体だけはとても強いの。風邪ひとつひいた事ない人なんだから。
だから大した事ないのに大袈裟に言っているだけなのよ!あの人なら平然とそういう事をするのよ…」

掴んでいた腕の力が徐々に緩んでいった。

私を見下ろす潤の顔色がどんどんと変わって行く。潤が私にそんな視線を向けた事はない。

まるで軽蔑をするような、怒っている顔をしたんだ。

「それを本気で言っているのなら菫にはがっかりだ…」

突き放すような言葉を言い放って、潤は家を飛び出そうとした。

「ちょっと!潤が行く必要なんてないッ!
潤が病院に行ったって嫌な思いをするだけよ?!」

玄関先まで飛び出した潤を引き止めるように腕を掴むと、それは冷たく振り払われた。

こんなに怒った潤の顔は初めて見た。今までずっと一緒にいたのに、そんな顔知らなかったのよ。