「そんな最初っから悪態つかないでもいいでしょう。
それに社会人以前の前に人としての基本は挨拶からだと思いますけど。
おじちゃん、こんばんは」

その言葉におじちゃんは眉毛をぴくりと動かした。

「挨拶をする気にもならないな。悪いけど潤くんと話す気にもなれない」

そう言って頭を少しだけ抱えた。

「あなた…せっかく潤くんがいらしてくれたのにそんな事言わなくても。
潤くんとりあえず座って?お紅茶でいいかしら?」

「あー…おばちゃんあんま気ぃ遣わないでいいよ?話が終わったらすぐに帰るから」

おじちゃんの目の前のソファーにゆっくりと腰をおろすと、おばちゃんはパタパタとスリッパの音を立ててキッチンへ向かう。

お湯を沸かす音がキッチンから僅かに聴こえてくる。

俺とおじちゃんはソファーに向かい合って座って、暫く無言で向き合っていた。

この家には何度も来ていた。それにおじちゃんやおばちゃんとも何度も話した。受け入れられなかった事は一度だってない。けれど、現在おじちゃんは無言で俺を拒否している。

その沈黙は長いため息で打ち破られた。

「どういうつもりなんだ…。」

「どういうも何も…。菫は俺と一緒に今暮らしてます。報告が遅くなってしまった事は申し訳ないと思ってます」

本来ならばこんな風に敬語で話し合う仲ではなかったんだ。

だからどこまでも他人行儀なこの空気が少し苦しくて……物悲しい。

菫にとって俺の両親が本当の親同然だったように、俺にとったっておじちゃんやおばちゃんは大切な人なのに。