困った顔をして悲しい気遣いをさせるのは切ない。
うちとは大違いで菫の家は隅々まで綺麗に掃除させられている。そういえば菫も掃除が好きで、家をいつだって綺麗に保っていた。
仕事が忙しいのに家事もこなしていたのは、この両親に育てられたお陰だろう。やっぱり生まれながらに育った環境は身に沁みついている。たとえば菫がどれだけおじちゃんに不満を持とうと、ふたりがそっくりなのもそのせいだ。
だからきっと俺はこの人にこれからどれだけの罵声を浴びせられたとしても、この人を嫌いになれない。
リビングのソファー。腕を組み、ジッとこちらを見据えながらおじちゃんが座っている。
口をへの字で結び、家にいるというのにいつだってきちんとしている。髪を整えてどこか出かけにいくような部屋着を着て。全くももひきになってソファーでいびきをかいているどっかの親父とは大違いだ。…でもとーちゃんは一応ファッション業界の社長である。
どこか上品で気高くてこの人の方がよっぽどファッション業界のお偉いさんに見える。
「何だ、その恰好は」
おじちゃんの開口一番の言葉は’それ’だった。
仕事帰りの普段着だった。しかしおじちゃんは上から下までじろりと見まわした後、大きなため息をついた。
「そんな恰好で会社に行ってるのか、全く社会人として呆れる」
けれど菫は潤が着る洋服は潤に似合っていると言ってくれる。
つーか一応スーツで来たんだけど…。いやこれはおじちゃんにとってスーツに見えないに違いない。
深いワインレッドの上下にネイビーのシャツ。どう見ても派手派手だったか。けれど今更文句をつける事もなく、俺がこんな格好をするのは知っている筈だ。



