「嫌だわ…あんまり見ないでよ…恥ずかしい…」

いつもは気の強い女がしおらしくなると…こんなにもときめくもんだ。

「菫、顔を見せて?」

「いや…」

「起きたばかりの菫の可愛い顔が見たいんだ」

「もぉーッ冗談ばっかり言って!」

顔をこちらへ見せた菫は真っ赤になっていた。

「潤の夢を見ていたの…」

「俺の?」

「うん。5歳くらいの潤の夢。お母さんがいなーいってギャーギャー泣いていたわ」

お前…。
そんな夢を見ながら俺の名前を呼んでほくそ笑んでいたとか…。絶対性格わりーぞ?

「私は潤を慰めるの。でも潤は泣き止まなかった。そんな潤が可愛らしくて守りたいって思ったのよ…」

「それって男の立場として微妙なんだが……」

確かに小さい頃、俺は菫より全然泣き虫だった。

すーぐ泣いていた。けれどそれとは対称的に菫は全く泣かない子供だった。今でもそうだ。菫は泣かない。

けれど寂しい時や悲しい時、涙を堪えている姿ならば何度も見てきた気がする。

我慢ばかりして生きてきた物は染みつきすぎてしまっているのだ。

「でも今は潤が私を守ってくれる」

そう言って菫はぎゅーっと俺に抱き着いてくる。…可愛い。

「ずっと守って行くよ」

そう言ったら俺の腕の中、菫は花のような笑顔を綻ばせた。

まるで小さい頃の結婚の約束をした日と同じような笑顔だった。

俺はこの笑顔を守って行くと決めた。その為には、しなくてはいけない事があった。