ふと菫の部屋の窓へ目をやると、煌々と明かりが灯っていた。
窓を開けて、「おーい」と呼んでみても、気づく気配はなし。 窓の端には小物入れがあって、その中には庭に落ちている小石がいくつか入っている。
…俺の私物なんて殆ど片付けた癖に、こういう物は置きっぱなしとか…。
ここで暮らしていた頃は、菫に気づいていて欲しい時は小石を窓にぶつけていた。なので常に常備していた。
それを手に取り、何回か窓に石を当てると彼女は気づいたようで窓を開けた。
スッピンでも大きな瞳をこちらへ瞬かせた。
…確かに美麗ちゃんに似てるっちゃー似てるけど。菫の方がもっと気の強そうな顔をしている。
「潤…また帰って来ていたの?」
窓越し、少し迷惑そうな顔をした彼女が話を掛けてきた。
小さな頃から菫は笑顔を作るのが苦手な不器用な女の子だった。 今日も不機嫌そうに見えるけれど、こういう時の表情は戸惑っている証。
昔から少し誤解されがちだったけれど、菫の事はよく理解る。
「ねぇ、おばちゃんは平気なの?」
「今日も元気そうだったよ。顔色も良いし」
「そう。なら良かったけど…。潤が帰って来てたらおばちゃんに何かあったかって心配するじゃない…」
ホッと胸を撫でおろしたように表情が明るくなった。
…そう菫はそういう奴なんだ。とても優しい女の子なのだ。優しくて…優しすぎて…両親の期待に応える為に、鳥かごのような家から出ようともしない。