「ねーちゃん俺も家へ帰るからついでに送って行くよ」
母が玄関まで見送りに来てくれた。
既に大地は外に出ていて、自分の車の前でキーを指でくるくると回して涼しい顔をして笑っていた。
車のハンドルを握る大地がやけに大人に見えた。
私は免許を持っているが、車は運転しない。18歳の時免許を取った時も父は「車をプレゼントしよう」と言ったけど断った。仮免も本試験も1発で合格したが、試験前にえらく緊張をしたのを覚えている。
教習所の先生にも補習をつけようか?と心配されたほどだ。昔からプレッシャーに弱いのは自覚している。普通の人がさらりとこなす事を実は簡単に出来ない。
仮免も本試験も1発で合格出来たのは、陰で人一倍努力していたからだ。私という人間は人の何倍も努力して、やっと人並みになれるのだ。
だからさっき父に啖呵を切ったけれど、学区内の公立中学にいたら馴染めなかったかもしれないし、音大なんてどれだけ勉強したとしても合格は難しかったかもしれない。
人からはクールに見られ何でも出来るように思われがちなのだが、元々の出来は人より良くない。
「それにしてもびっくりしたなー。潤くんと付き合ったなら言ってよ~」
「つい最近の事なのよ。それに付き合ったっていっても何ら変わりないわ。いつも通りって感じ」
「バッカだな~、ねーちゃんは。付き合ってんだから今までと何ひとつ変わらないなんて事はないだろう」
呆れた様子で大地が笑う。
「そういうもんなの?」
「そういうもんだよ。今までは幼馴染として一緒に居たって付き合ったらそりゃー変わるもんもあるでしょー?
それに潤くんちで暮らしてるんでしょ?いやー既に同棲してるなんて驚いたけど」
「でも別に何もないわ。付き合ったと言っても」
信号で止まると、訝し気な顔をしてこちらを見る。



