8.菫■理想の娘■
 



すっかり外の空気も変わり季節は夏になっていた。

潤と共に過ごした時間は月日が経つのが早すぎる。それは多分…楽しかったからだと思うわ。子供の頃遊んでいる時間が短く感じて、夜になっても帰りたくないと泣いた事。

潤と共に過ごす日々はあの頃を思い出させる。楽しくて終わりが来るのが名残惜しいあの日々を思い出させる。

しかし現実はそう甘くなかった。

「お前は一体何を考えている!!」

その週の土曜日。数か月ぶりに実家に帰って来た。

何故か偶然に大地も実家へ帰っていた所だった。

私は馬鹿正直に全ての経緯を事細かに父へ話した。

最初は私が久しぶりに帰ってきたことに上機嫌だった父が、話を進めていくうちに段々と不機嫌になっていき…そしてまだ話も終わらぬうちに、顔を真っ赤にさせて怒りだした。

余談ではあるが、私は父が怒っている所を見た事がない。それは多分、25年間という長い月日。私が父を怒らせる事をしてこなかったからだ。

いつだってこんな機会はあっただろうに、どんな状況になったとしても私は父の望む答えを選択し続けたのだ。

あの中学入学の時から、ずっと。

母は相変わらず父の隣で何も言わずに話を聞いていて、隣にいた大地は「ねーちゃんやるじゃん」とニコニコ笑っていた。その大地へと父が激しい叱咤をする。

「大地は黙っていろ!」

「ひぇー、怖……」

「まさかお前が余計ないれ知恵をしたのではあるまいな?!」