でも、分からない。
「何故、そのような事を私に……?」
ファンさんが仰る理由がみえない。
「陛下は…いえ、リードは私の幼馴染なのです」
「え…?」
唐突な言葉に思わず足が止まる。
「…あ、すいません」
「いえ、大丈夫ですよ。少しお話しましょうか」
ファンさんはゆっくり話が出来るように、私を近くにある椅子へ案内をした。
「陛下の噂をご存知ですか?」
「……はい」
陛下の噂はここで働く人間だけではない。帝国の貴族や平民でさえ知っている有名な事だ。
「アイツが冷酷で非道な人間のような噂が流れているのは知っての通りです。実際、アイツは人に心を許さない。いつも孤独な道を進む奴です」
ファンさんがゆっくりと私に話してくれたのは、陛下の幼少期についてだった。
「…前皇帝はかなりの女好きで、当時の後宮には華美に着飾った沢山の女性が暮らしておりました。そのお陰で跡継ぎには恵まれておりましたが、勝手し放題の貴族や帝国内での騒動など様々な問題がありました。あの当時は、貴族側が権力を握っていたと言っても過言ではありません」
言われてみれば、確かにその頃だった気がする。
あまり思い出したくない記憶だけど、私が初めて命の危険を感じたのは。
あの当時、どこも治安が悪くて……。
「アニ様、大丈夫ですか?」
「え…?」
「顔色が宜しくありませんが…」
「…あ、いえ。大丈夫です。少し幼少期の頃を思い出してしまって…」



