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━━━…当日。

深夜にヴィスタン王国へ到着した私達は用意された客室で睡眠を取ると、朝から準備に追われていた。

陛下は忙しいようで部屋にはおらず、私は…と言うと早朝よりメイド達の手によって念入りに支度が為されていた。

バラを浮かべたお風呂に全身マッサージに化粧に……。

終わった頃にはぐったりと椅子にもたれ掛かっていた。

「パーティーは夜からなのに、こんなに早くから支度をするなんて……」

「アニ様、お綺麗です」

「ありがとう」


確かに鏡に映る私は、まるで別人のようだ。

肌はツルツルだし、用意されたドレスは馬子にも衣装って感じ…。

陛下が用意して下さった講師のおかげでダンスはなんとかなりそうだけど、恥をかかない為にも少し練習をしておこうかな。

立ち上がると、早速ステップを踏んでみる。

「いちに…ターン、いちに…ターン。んー…」

しかし、相手がいないとどうも感覚が掴めない。

「サニーは男役って出来る?」

「残念ながらわたくしは…。お役に立てず申し訳ありません…」

「別にそんなに落込まなくていいのよ…っ!男役が出来る女性の方が珍しいと思うし…」

そもそもよく考えてみれば、貴族出身でもない限りダンスの教養を身に着けていないのが普通だ。

「もう一度してみよう」

気を取り直してもう一度ステップを踏む。

「いち…に……ここでターンっと」

「良い感じですよ」

「そう?……って」

男性の声に足を止めると、視線をドアの方へ向ける。


そこにいたのは、

「宰相様…っ!?」

「気軽にファンとお呼び下さい」