その相手というのが……。
「…て、帝国の光、皇帝陛下にご挨拶を申し上げます」
「そなたも来ていたのか」
許可証を持っている者のみが入れるからと安心していたけれど、逆に言えばアンディード城の中で偉い地位の人は出入り自由という事だ。
片手でドレスの裾を掴み頭を下げていると、陛下が徐々に距離を詰めてくるのが分かった。
そして、
「あ…っ!」
手に持っていた本を一冊、取られてしまった。
ふ~ん…といった感じで私の本を眺める陛下に、取り合えず声をかけてみる。
「あの、その本を返して頂けますでしょうか?」
「こうゆう本が好きなのか?」
「…えぇ。読んでいるだけで心が癒されるので」
「こんな話で…か?」
「…………えぇ」
『こんな話ですが?』と返したい気持ちを抑え、短く言葉を返す。
陛下は興味が失せたのか、あっさりと本を返してくれた。
「ありがとうございます…」
ここへ来たと言う事は、陛下も図書館を使用するんだ…。
当たり前のことなのに、何だか意外だと思ってしまう。
本を返して貰った事だしそろそろこの場から去ろうと動き出した時、陛下から呼び止められた。
「何でしょうか?」
足を止め、振り返る。
陛下は私をジッと見つめていた。
サラッとした紺色の髪に、獲物を捕らえるような鋭い目つき。
じっくりと顔を見る機会がなかったけど、こうして見ると確かにアイルさんや周りの人が噂する理由が分かる気がする。
正直言って私も、不覚にもカッコいい…なんて思ってしまった。



