「今は陛下と大事なお話し中ですが…」
「…あ、すいませんでした!陛下にお礼を申し上げたくて…」
その声は先程お聞きした宰相様の声と似ている。
というか、本当に宰相様なのかもしれない。
運悪くも宰相様と執務室で大事なお話中に伺ってしまうなんて。
また後で出直そう。
「失礼致しました…」
そう思ってドアの前から立ち去ろうとした時。
「……アニ?」
中から陛下の声が聞こえて来た。
「もしかして、先程の女性ですか?」
「あぁ。この声は恐らくそうだ」
宰相様の爽やかな声とは違って、落ち着きのある陛下の声。
「入れ」と中から呼びかけられると、私はディノンを置いて一人で中へ足を踏み入れた。
「失礼致します…」
資料を積み上げた席にいる陛下と、向かい会った宰相様が、中へ入って来た私の方へ視線を向ける。
「何用だ?」
「あ…大事なお話を遮ってしまい申し訳ございませんでした。ただ……このドレスのお礼を申し上げたくて」
「ドレス…?陛下が女性にドレスを贈られたのですか…ッ!?」
「…え?えぇ…」
先に反応したのは、陛下ではなくその前に立つ宰相様だった。
「あ、失礼致しました。ご挨拶がまだでしたね。私はファン・ギルド・ロンザードと申します」
宰相様はそう言って丁寧にお辞儀をした。
ロンザードって言ったら、確か……。
古くからアンディード帝国に仕える、由緒ある侯爵家だ。
序列順位は三番目で、宰相職に就いていなくても大きい権力を持っている。
以前、お城の図書館に立ち寄った際に興味本位で目にした貴族の序列本に、そのように書かれてあった。
「私はアニ・テリジェフと申します」
「テリジェフ様…ですか。陛下が女性に何かをプレゼントするなど…正直驚きました」
「そうなのですか?」
確かに言われてみれば、陛下の浮いた話はこれまで聞いた事がない気がする。
誰かにプレゼントを贈ったとなれば、それこそ噂好きのアイルさんが話していそうだ。
そう思うと、私は滅多に頂けない陛下からの貴重な贈り物を頂いた事になる。
平民のくせにね……。
相手が平民だと知って贈り物をしたとなると、よほど初めの格好がみすぼらしかったのだろう。
「おっと……このままだと身の危険が。私はこれで失礼させて頂きます」
「あ…はい」
宰相様は再びお辞儀をすると、私の横を通り過ぎて部屋から出て行ってしまった。



