……取り合えず、お礼を言わなくてはいけないわね。
壁掛けの時計に目を向けて、夕食の時間まで余裕がある事を確認すると、ディノンへ声をかけた。
「陛下にお会いしたいのですが、案内をお願い出来るかしら?」
本当は案内されなくても場所は分かる。
この時間なら恐らく執務室にいらっしゃるはずだ。
けれど、先程到着したばかりの私が案内人なしにその場所へ行くわけにはいかない。
以前お城へ来た事のある客人ならともかく、初めて足を運んだ私なら尚更。
平民だと知られてしまうのも少し不味いけれど、それよりも私がここのメイド、アニーナだと言う事を知られてはいけない。
使用人達にも、陛下にも。
疑われる行動は慎んで、陛下に飽きられるまで慎重に動かないと…。
「かしこまりました。では、ご案内致します」
「えぇ。お願い」
ディノンの後をついて行くと、ひと際立派なドアの前に到着した。
「こちらに皇帝陛下はいらっしゃいます」
そこは、思った通り執務室だった。
先程、仕事に戻るって仰られていたけれど……。
顔の当たりまで拳を持ってくると、『コンコンコンッ』とドアを叩く。
もし、お邪魔なら直ぐに戻ろう…。
「…どなたですか?」
部屋の中から聞こえてきたのは、陛下とはまた違う男性の声だった。



