何て言おう……。ここは、普通に自己紹介をするべき?それともー………あ、そうだ。
その時、私はある事を閃いた。
これなら、誤魔化せるかもしれない…と。
「…失礼致しました。私は『アニ・テリジェフ』と申します」
「アニ・テリジェフ…か」
「はい。皇帝陛下」
アニは私の愛称。
そして、テリジェフは。
結婚する前の母の苗字だ。
「余の名は分かるか?」
「はい。リード・フォン・ドミリア・アンディード様でございます」
「……ほぅ。余の顔は知らずとも、名は分かるのか」
「………この国の象徴たるお方ですので」
何だか嫌味を言われてしまったけれど、仕方ない。
警戒すべき皇帝陛下の顔を知らなかった私がいけなかったのだから。
「…ふっ、面白い」
陛下はそう言って、口元を緩ませた。
「帝国の光、皇帝陛下。わたくしをお呼びでしょうか」
少し経ち、私たちの元に一人の女性が姿を現した。
「来たか」
その女性は陛下の前で深々と頭を下げる。
「この女は余の客人だ。滞在中、面倒を頼む」
客人として迎え入れるとは言っていたけれど、本当に平民の私を客人として迎え入れるつもりなんだ…。
女性はその言葉を聞いて、私の方へ身体を向けた。
「わたくしはメイド長を務めますラディカルと申します。滞在中、何なりとお申し付け下さい」
そして、深々と頭を下げる。
私相手に。
もちろん知っていますよ……。だって、メイドの長だもの。
三日前。休暇の許可を頂いたのもこの人だ。



