平気な顔で人を切り捨て、凍えるような冷たい目をなさる人だとは思っていた。
けれど、この人がまさかあの皇帝陛下だったなんて……。
「別に気にするな。これまでの無礼な態度は許してやろう」
「か…寛大なお心に、感謝致します」
恐らくあの町には視察で来られていたのだろう。
けれど、例え視察とは言え、よりにもよって休暇中にあのような場所で会うなんて。
「そう言えば、そなたの名をまだ聞いていなかったな」
「わ、私の名前…ですか?」
幸いな事に、私はこれまで陛下と会った事はない。
仕事中は変装をしていたので、あのメイドが私だと気づかれる事はまずないと思う。
……でも。
名前を言ってしまったら。
流石にバレるかもしれない。
「平民であっても、名ぐらいはあるだろう?」
「わ、私の名前は……」



