「お客様……ですか?」
必要以上に瞬きを繰り返す宰相様は、まるで意外な言葉でも耳にしたかのような表情だ。
「そう言えば、空きの客室は掃除されてあるのだろうな?」
「え、えぇ……。それはもちろんでございます。毎日、メイドの方達が欠かさず掃除を行っておりますので…」
「そうか。部屋はそこで良いとして後は……」
男は顎に手を当てて何やら考えている。
宰相様相手にこの様な口を聞ける人物って……。
お城の中ではそう多くはない。
「直ちに、ここへメイド長を呼べ!」
「かしこまりました」
男がそう声を上げると、宰相様は早足でその場から立ち去った。
これは『命令』だ。
宰相様に命令が出来る人物。
確か……現在この国では一人しかいない。
………はずだ。
「あの……ここまで来て何ですが、貴方は一体何者ですか?」
………お願い。違って!!
心の中で叫ぶ。
私の頭の中では既に一人の人物が浮かび上がっていた。
「ここまで来れば気が付くと思っていたが…何も知らない平民であれば仕方ない」
「……え?」
「余が…………
この国の皇帝だ」
皇帝……。この国の…皇帝陛下…。
実際言葉で耳にすると、何を言ったら良いのか分からず言葉を失ってしまう。



