「お帰りなさいませ」
入口で出迎えてくれたのは、濃いグレーのフロックコートに身を包んだ若い男性だった。
あれ……この人見たことがある。
私の記憶が正しければ、確かこの国の宰相だったはずだ。
周りから『宰相様』と呼ばれている光景を、何度か見かけた事がある。
「予定より少し遅いので心配致しました」
しかし、その宰相様が何故こんなところに立っているのだろうか。
そんな事を不思議に思いつつ見つめていると、宰相様と目が合ってしまった。
やっと私の存在を認識したのか、宰相様は困惑顔で男の方を見つめた。
「……あの。失礼ですがその方は………」
言われると思った……。
素上の知れない私の姿に、宰相様の口調はどこか訝しげに聞こえる。
例えこの人が良くても、皇帝陛下の許可なしに部外者を入れるなんて。
常識的に考えれば有り得ないのに。
この人はこの国の宰相様を目の前にしても毅然とした態度で、「客人だ」の一言で押し通そうとしている。
そんな理由が通るはずがないのに。



