大丈夫。
また私だけ、我慢すればいいだけの話だから。
真っ直ぐと目を合わせる私に、男はフッ…と軽く笑った。
「賢明な判断だ」
まるで面白い玩具でも見つけたようにも思えた。
急遽お城へ連れて行かれる事になった私は、頂いた支度の時間を利用してグラントへある指示を出した。
一つは、家族に本当の事を話さない事。
そして二つは、いつも使用している変装セットを里帰り用の鞄の中へ入れて、お城の自分の部屋へ送る事。
後の事は、私がどうにかするしかない。
待ち合わせの場所に向かうと、そこには黒色の大きな馬車が停められてあった。
馬車に乗る身分もお金もないのにと思ったが、言われるがまま腰を下ろすと後は沈黙だけが流れた。
行きの時は半日も掛かった道が、帰りはまるで一瞬だ。
………この人は一体何者なんだろう。
始めはいずれ会えば誰か分かるはずだと思っていたが、ここまでくると気になってくる。
お城ではどのような立場なのか。
どのような仕事を任されているのか。
お城へ着くまでの間、色々と思考を巡らしてみたけれど答えは一向に出ず。
気がつけば、お城へと到着していた。



