暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》



大丈夫。



また私だけ、我慢すればいいだけの話だから。



真っ直ぐと目を合わせる私に、男はフッ…と軽く笑った。



「賢明な判断だ」



まるで面白い玩具でも見つけたようにも思えた。






急遽お城へ連れて行かれる事になった私は、頂いた支度の時間を利用してグラントへある指示を出した。


一つは、家族に本当の事を話さない事。


そして二つは、いつも使用している変装セットを里帰り用の鞄の中へ入れて、お城の自分の部屋へ送る事。



後の事は、私がどうにかするしかない。



待ち合わせの場所に向かうと、そこには黒色の大きな馬車が停められてあった。


馬車に乗る身分もお金もないのにと思ったが、言われるがまま腰を下ろすと後は沈黙だけが流れた。


行きの時は半日も掛かった道が、帰りはまるで一瞬だ。


………この人は一体何者なんだろう。


始めはいずれ会えば誰か分かるはずだと思っていたが、ここまでくると気になってくる。


お城ではどのような立場なのか。


どのような仕事を任されているのか。


お城へ着くまでの間、色々と思考を巡らしてみたけれど答えは一向に出ず。


気がつけば、お城へと到着していた。