「これ以上後ろを向かない方がお前の為だ」
「……はい」
恐らく後ろは血の海なのだろう。
そして、あの男の遺体が転がっているのだろう。
「……うわっ、すげえ血……。って言うか、アニ姉無事か!?」
後ろから足音と共に、弟の声が飛んできた。
弟の方を振り向きたいが、残念ながら今は振り向く事が出来ない。
「………お前は誰だ」
警戒するような弟の声が聞こえる。
それもそうだ。
人さらいにあいかけた姉が現在、知らない男の人から抱きしめられている。
今来たばかりの弟には、そう見えるのだろう。
取り合えず、誤解を解かないと。
恐らく後ろにあるであろう男の遺体を見たくなくて、弟に背を向けたまま声をかける。
「この人は捕まりそうなところを助けてくれたの」
その言葉に弟は「あぁ…そうゆう事か」と、納得したように小さく呟いた。
まさかこの言葉だけであっさり信じるなんて、弟にしては何だか珍しい。
……と、そう思っていたら。
「それで、振り返れないわけだな…」
あの男の遺体に気付いたのか。
弟は私が振り返らなくて良いように、隣に移動した。



