暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》




「これ以上後ろを向かない方がお前の為だ」


「……はい」


恐らく後ろは血の海なのだろう。


そして、あの男の遺体が転がっているのだろう。


「……うわっ、すげえ血……。って言うか、アニ姉無事か!?」


後ろから足音と共に、弟の声が飛んできた。


弟の方を振り向きたいが、残念ながら今は振り向く事が出来ない。


「………お前は誰だ」


警戒するような弟の声が聞こえる。


それもそうだ。


人さらいにあいかけた姉が現在、知らない男の人から抱きしめられている。


今来たばかりの弟には、そう見えるのだろう。


取り合えず、誤解を解かないと。


恐らく後ろにあるであろう男の遺体を見たくなくて、弟に背を向けたまま声をかける。


「この人は捕まりそうなところを助けてくれたの」


その言葉に弟は「あぁ…そうゆう事か」と、納得したように小さく呟いた。


まさかこの言葉だけであっさり信じるなんて、弟にしては何だか珍しい。


……と、そう思っていたら。


「それで、振り返れないわけだな…」


あの男の遺体に気付いたのか。


弟は私が振り返らなくて良いように、隣に移動した。