暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》




危険を伴うけれど仕方ない。


それ以外に方法がないのだからー……。


私は一呼吸置くと、男達が支度に気を取られている隙を見計らって、全力で走る。


幸い、手足は自由で縄がされていなかった。


「誰か……ッ!誰か助けて……ッ!!」


薄暗い路地の中を必死に叫ぶ。


足の遅い私が捕まるのは時間の問題かもしれない。


お願い……ッ。誰か来て……ッ!!


心の中でそう叫んだ時。


運が良いのか悪いのか。


捜しに来てくれたグラントと再会した。


「グラント……ッ!」


「アニ姉、一体どこに行ってたんだよ…!しかも、あり得ないと思っていたこんな場所にいたし…」


嬉しいけれど今は再会を喜んでいる場合じゃない。


「グラント。見ての通り追われてるの…!話的に私を売るつもりだったみたい……。今は逃げましょう!」


『取り合えず、今は逃げ切って近くにいる兵士か騎士に助けを求めた方が』……と告げる私に、グラントは追いかけてくる男の方へ身体を向けた。


「ちょっと…グラントッ!?」


「俺がここでアイツらを食い止める。念の為を考えて木刀だけど一応持ってるし」


「それじゃあ、グラントが危ないわ……ッ!」


相手は大人で、グラントは子供なのに。


「このままじゃあ、二人とも捕まって終わりだ。アニ姉は役人をここへ呼んできてくれ」


確かにそれもそうだ。


足の遅い私と足の速いグラント。


グラントはきっと私のペースに合わせてくれるから、そのままだと捕まってしまう。


仮に役人に話したとしても、信じてもらえるか分からない。


世間では、人身売買が消えたと思われているから。