「アニ姉!ちょっくら町へ行ってみようぜ」
母が隣の家の人と用事があると言って、出かけてしまった昼過ぎ。
弟のグラントが声をかけて来た。
「え、町!?」
「あぁ!久々に案内するよ」
町には正直良い思い出がない。
どちらかと言うと恐怖の対象なのだが、可愛い弟の誘いは中々断りにくいところがある。
けれど、今回は心を鬼にする。
「……駄目よ。町は危ないから」
「大丈夫だって!今は昔より治安が良くなってるし、変な奴らも少ないんだ」
見た感じ、どうしても行きたいらしい……。
その様子に思わず『困ったな』と心の中で呟く。
「ほら、アニ姉行こう!」
グイッと手を引かれる。
「ちょっと待って…ッ。それならいつもの変装セットに着替えるから」
このままでは流石に目立つ。
例え剣術に秀でているグラントと一緒に居たとしても、危ない目に合うのだけは避けたい。
「じゃあ、このフード貸すよ」
そう言ってグラントは自分の着ていたフード付きの上着を手渡してきた。
「え…?」
「フード被ってたら気づかないって」
何処か得意げなグラント。
「そ、そうかなぁー……」
何だか言われてみれば、不思議とそんな気がして来た。
フードは思っていたよりも深くて、髪だけでなく簡単に目元すら隠した。
「ほら、早く行こうぜ!」
「はいはい」
置き手紙ぐらいはー……と思ったけれど、急かすようなグラントの姿に私はそのまま家を後にした。



