暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》











「アニ姉!ちょっくら町へ行ってみようぜ」


母が隣の家の人と用事があると言って、出かけてしまった昼過ぎ。


弟のグラントが声をかけて来た。


「え、町!?」

「あぁ!久々に案内するよ」


町には正直良い思い出がない。

どちらかと言うと恐怖の対象なのだが、可愛い弟の誘いは中々断りにくいところがある。


けれど、今回は心を鬼にする。


「……駄目よ。町は危ないから」

「大丈夫だって!今は昔より治安が良くなってるし、変な奴らも少ないんだ」


見た感じ、どうしても行きたいらしい……。


その様子に思わず『困ったな』と心の中で呟く。


「ほら、アニ姉行こう!」

グイッと手を引かれる。


「ちょっと待って…ッ。それならいつもの変装セットに着替えるから」


このままでは流石に目立つ。


例え剣術に秀でているグラントと一緒に居たとしても、危ない目に合うのだけは避けたい。


「じゃあ、このフード貸すよ」


そう言ってグラントは自分の着ていたフード付きの上着を手渡してきた。


「え…?」

「フード被ってたら気づかないって」


何処か得意げなグラント。


「そ、そうかなぁー……」


何だか言われてみれば、不思議とそんな気がして来た。


フードは思っていたよりも深くて、髪だけでなく簡単に目元すら隠した。


「ほら、早く行こうぜ!」


「はいはい」


置き手紙ぐらいはー……と思ったけれど、急かすようなグラントの姿に私はそのまま家を後にした。