「ねぇ、聞いたー?」


給湯室でコーヒーを淹れる私アニーナの元にやって来たのは、お団子頭をした同僚のアイルさんだった。

彼女はレイガ―男爵家の娘で、職場の中では噂好きとかなり有名だ。

「どうしたの?」

「このお城で、また死人が出たらしいわよ!」

思わず心の中で『またか…』と呟く。

ここでは死人が出るなどいつもの事だ。


『粛清王』『暴君』『血に飢えた猛獣』『戦場の鬼神』


これら全ては、メイドとして働く私達の雇用主であり、このアンディード帝国の皇帝────…リード・フォン・ドミリア・アンディードを指す言葉だ。

気に入らない相手がいれば容赦なく切り捨て、目障りならば他国すら滅ぼす。